昼下がりの部屋に、やわらかな光が差し込んでいた。
カーテン越しの陽射しは白く滲み、空気の粒をきらめかせている。
静かな時間。けれど、その静けさの中に微かなざわめきがある。

あなたがここに来ると聞いたのは、ほんの数時間前。
心のどこかで、何かが小さく震えた。
理由のない緊張と、期待にも似た熱。
鏡の前で髪を整えるたび、指先が少し汗ばんでいるのに気づく。

玄関のチャイムが鳴った瞬間、世界の音が止まったように感じた。
扉を開けたとき、陽射しの中に浮かぶあなたの輪郭が、
まるで現実より少し鮮やかに見えた。

言葉は交わした。たったそれだけ。
でも、視線が触れ合うたびに、
胸の奥の柔らかいところが音もなく揺れる。
あなたの笑い声が近づくたび、空気が変わる。
午後の光が肌を撫でるように、
わずかな距離の中で、何かがゆっくりと溶けていく。

ふと、指先が机の上で触れ合った。
ほんの一瞬。
それだけで、全身の血が動き出すのがわかった。
その後の言葉は、まるで他人の声みたいに遠かった。

外では風が木の葉を揺らしている。
光の粒が舞いながら、時間だけが静かに過ぎていった。
触れなかった。けれど、それ以上に――近づいてしまった。